2020月01年15日
より強くなるためには、指導者との関係性が大切
私は現役時代に「走ること」が仕事でしたので、どれだけ速く走れるかについて日夜考えてきました。
そのため、トレーニングに関して多くの工夫や取り組みをしてきました。
しかし、現役時代の後半になって速く走るためにはトレーニングだけではないことに気づきました。
私の経験上、トップのアスリートになればなるほど、トレーニング内容自体に違いがないと気づきました。
そう感じたのは、マラソン日本代表の合宿に参加した時です。
日本代表の合宿と私のチームのトレーニング内容は、多少のボリュームの差はあるものの、日頃のメニューと大きく変わりはないと感じました。
結果を出すためには、もちろんトレーニングは大切ですが、それ以外にもっと大切なことがあると思います。
それは、指導者と選手の関係性です。
選手をさらに強く引き上げるには、日頃のトレーニング×指導者との関係性なのではないでしょうか。
今回の記事はどちらかと言えば、アスリート向けの内容になっていますが、高い目標をもってビジネスしている方にも置き換えて読んでいただくと参考になるのではないでしょうか。
私が選手として強くなった経験として、「指導者との関係性」について考えていきたいと思います。
トレーニングメニューより大事なのは指導者との関係性
2009年ベルリン世界選手権にて川越監督とランチを食べる加納由理
アスリートは、目標を達成するために日々、厳しいトレーニングを重ねています。
肉体的にもメンタル的にも、ギリギリの精神状態なのです。
私自身も22年間の競技生活において、色んな経験をしてきました。
では、ここで私が指導者との関係性において良い時と悪い時でパフォーマンスにどう影響したのかについて、お話させていただきたいと思います。
2008年は1年を通して指導者との関係性もよく、よい結果にも恵まれました。
そのきっかけとなったのが、北京オリンピックの選考会に怪我で途中棄権をした時の経験でした。
再挑戦を決めた後も怪我が治らず、練習を再開できず苦しむ私に監督はこう言葉をかけてくれました。
「レースに間に合う、間に合わないではなく、レース当日まで自分が今できることをやり切ろう。」と言葉をかけてくれたことで、気持ちが楽になった覚えがあります。
この一言がきっかけとなり指導者を信頼し、今まで以上にコミュニケーションがしっかりとれるようになりました。
また、周りの支えてくれる人たちがいるから、自分が結果を出せると心から思えるようになり、2009年は最高の結果を得ることができたのです。
逆に指導者との関係性が悪い時は、コミュニケーションがほとんどとれていませんでした。
その日その日で変わる自分の体の調子は正直に伝えてはいませんでしたし、自分の状態を正直に話すことで、「指導者の機嫌が悪くなるのではないか?」と考えてしまいました。
チームで動いている以上、「自分だけが違う行動をすることは周りに良い影響を与えない」と思い、自分の考えていること、自分の身体の中に起こっていることを押し殺していました。
そんな我慢の先に待っていたのは、脚の怪我でした。
このような私の経験から、指導者との関係性が良い時、悪い時のパフォーマンスには、大きな差がでると実感しました。
例えば、
【指導者との関係性が良い時】
・目標達成するために共に頑張れる
・コミュニケーションがとれている
・チームでやっている意識が出来る
・レースでも練習でも最後まで粘れる
・メンタルも安定しているので、前向きな姿勢でレースも練習も落ち着いて望める
といった状況でレースに対して前向きな姿勢で挑むことができました。
一方で、
【指導者との関係性が悪い時】
・一人で考え込む
・レースも練習もこなしているだけになる
・うまくいかなかった時に言い訳する
・不満や不平を言う
・諦めが早い
・何のために走っているのかわからなくなってくる
といったような状態でレースを迎えなければなりませんでした。
こうしてみてみると、指導者との関係性の良い時と悪い時でパフォーマンスが大きく違っていました。
マラソンはメンタルスポーツです。
このように、結果を出すためには人間関係が最も大切になってくるのです。
指導者との関係が良い時は、きついトレーニングもその目的を納得した上で走っていました。
自分だけが結果を出せば良いと思わず、自分の指導者・自分を応援してくれる人・チームメイトの為にも走りたいと言う気持ちがありました。
しかし、指導者と関係性が悪い時は出されたトレーニング内容に納得しておらず、トレーニングに対しても疑問を抱くことが多かったのです。
ただきつい練習をこなすのが目標で、我慢することが精一杯でした。 もちろん、結果は出ません。
今、指導者との関係に悩んでいる場合
福井県のジュニアアスリート長距離教室で参加者の質問に応える加納由理
それではここで、実際に指導者と関係が悪くなってしまっている選手は今、何が出来るのかについて考えていきたいと思います。
これは仕事で上司との関係に悩んでいる人にも当てはまるのではないでしょうか?
その1:辞めるという選択
自分に本当に合わない環境である場合や、道徳的に問題がある場合は、辞めることも良い選択である場合があります。
しかしながら、私の経験上、この選択が必ずしも良いとは言えません。
私も辞めたことがあります。
しかし、辞めた後に思ったことは、どちらの選択を選んだことにせよ、辞める前にもっと指導者と腹を割って話をすればよかったと後悔しました。
お互いが思っていること、感じていることをしっかりと話をするべきだと思いました。
ただ、指導者が合わないといって、相手のせいにして辞めてしまうのは簡単ですが、それでは自身の根本的な問題は解決されないことが多いと思います。
自分にも改善できることはなかったか?
そのような視点で冷静に考えていくことは大切です。
その2:少し離れてみるという選択
「本当に競技を続けていきたいのか?」
「自分は今何のため、誰のために何に向かって走っているのか?」
自分の向かう道を選択するためにはものすごく大切な時間です。
私は現役時代怪我で3カ月走れなかった時がありました。
これまで走っていることが当たり前だったのが、いきなり長期間走れなくなったことによって、走れることの喜びに気づくことが出来ました。
その3:自分が変わるという選択
自分自身が変わるというのは、とても大変なことだと思います。
若くして結果を出すと、周りから注目されちやほやされ、人生何でも思い通りになると勘違いしがちになります。
長い人生は、思い通りになることばかりではありません。
私自身も、ちやほやされたこともありました。
しかし、結果が出せなくなってくるとメディアやファンが、自分から引いていくという経験を、私もしました。
結果が出せなかった時にこそ、自分の現状を認め、指導者の言葉を素直に受け入れ、そこから這い上がっていけるかどうかが問われます。そこに真の強さがあると私は思います。
奢らず、人に感謝して、周りから愛され信頼されるようなアスリートになれるか。
指導者やチームから信頼されるような人間になれるか。
そうなれた時こそ、本物のアスリートです。
この意識が持てるかどうかで現役時代はもちろん、引退後にも支援・協力してもらえる人になり、引退後のセカンドキャリアにも繋がってくるのです。
本当に強い選手なるためには、指導者との信頼関係にあり
1999年ユニバーシアード・スペイン・パロママヨロカ島で沢木さん、古村監督、十倉コーチと
今回、「強い選手になるためには、練習メニューだけではない」をテーマに書かせていただきました。
もちろん強くなるためにはきついトレーニングを乗り越えなくてはなりません。
そのきついトレーニングを乗り越えるためには、指導者との信頼関係で頑張れるか頑張れないかも変わってくるのです。
私自身も指導者に対して、素直になれない時期もありました。
素直に指導者の言っている内容、コミュニケーションがしっかり取れていれば、もっと結果は変わっていただろうと、思ったこともありました。
私が22年間の競技生活を通して気付いたことは、指導者に対して素直になることで、この選手を強くしたい、育てたいと思えるような選手になるのです。
もちろん、これはどんな仕事でも同じことが言えます。上司の指導を素直に受け入れるかどうかで、成長のスピードはまったく変わってきますよね。
どれだけ、応援したいと思ってもらえるか、それはその人の人間性を含めた成長が求められると思います。
仕事も会社も辞めるのは簡単ですが、自分を変えていくのはとても大変なことです。
指導者と向き合いながら、自分自身を磨いていくことも一流になるために大切なのだと思います。