2019月12年25日
競技引退後の転機
ビジネスプランコンテスト「トオコン2015」
私は新潟十日町市が主催するビジネスコンテスト「トオコン2015」で新分野進出の部で優勝することができた。半年前はパワーポイントをいじったことも、人前でプレゼンテーションをしたこともなかった。ビジネスプランなんて生涯自分に縁の無い言葉だと思っていた。そんな自分が市長や起業家たち審査員をはじめ数十人の前でビジネスプランをプレゼンテーションをすることになるとは本当に想像すらしていなかった。
マラソン人生22年、それ以外のことを全くと言っていいほどしてこなかった自分がなぜビジネスコンテストに挑戦することになったのか、その経緯やそのプロセスで経験したこと、思いを共有することで、新しいことに挑戦しようとしている人の勇気になってくれることを願って、自分の情けない姿も含めて記事にしておこうと思う。
西田隆維さんから紹介されたウィルフォワード
私が人生初のプレゼンテーションをやることになった経緯は2015年5月に遡る。マラソンランナーとしては先輩の西田隆維さん(世界陸上エドモントン大会 男子マラソン9位)に紹介され、ウィルフォワードと代表の成瀬さんと出会うことになる。西田さんは1999年にスペインで行われたユニバーシアード大会に日本代表として一緒に選出されてからのお付き合いである。私が現役を引退した後に「この先、どうすればいいのだろうか?」と相談した際も親身に相談に乗っていただいた。
その西田さんから「ウィルフォワードのなるちゃん(成瀬さん)に会った方が良いよ!」と言われ、一緒に目黒の一軒家オフィスを訪れたのが最初である。結果的に、私はウィルフォワード所属として新たなスタートを切ることになるのだが、この話は長くなるので、ウィルフォワードや成瀬さんの紹介は別の機会にしようと思う。
私がビジネスプランコンテストに参加する!?
大地の芸術祭の里、越後妻里
成瀬さんはよく「食わず嫌いをせずに色んな世界を知った方が良い」と言い、色々な情報を提供してくれる。陸上・マラソンの世界しか知らない私は、「その通りだな」と思いつつもビビリゆえ、新しい世界に飛び込むのに、好奇心よりも恐怖が勝ってしまう。それでも「立ち止まっていても何も変えられない!」と基本的に誘われたものは足を運ぶようにしている。そのノリでフラっと浅草で行われた地域創生の勉強会に参加したのが6月の出来事だった。
新潟県十日町市・津南町の一帯は「越後妻有(えちごつまり)」と呼ばれており、限界集落となった集落を抱えている地域だった。私は知らなかったのだが、2000年から3年に1回「大地の芸術祭トリエンナーレ」という芸術祭が行われ、国内外から50万人強が集まっているとのことだった。
その勉強会で、過疎化した日本の実態、地域創生の必要性、大地の芸術祭という取り組みを少し知ることができた。自分たちも地域の魅力を生かし、地域を元気にするビジネスプランを作ってみようということだったが、プランまでが難しくてもアイデアを出してみようとのことだったので、私は人生で初めてビジネスアイデアを出すことに挑戦した。
マラソンをシリーズ化するというアイデア
私が出したアイデアは「マラソン大会で地域活性をするというもの」。それを単独レースとするのではなく、ワールドマラソンメジャーズやロックンロールマラソンなどシリーズ化して、マラソンを走ることで日本各地をまわるというものだった。
私自身、現役時代にアメリカでのキャンプ生活(マラソン合宿など)が長かったのだが、調整のために全米各地のレースをまわっていたのが面白かったので、それを市民ランナーの方にも経験してもらいたいという想いから出たアイデアだった。
ビジネスプランコンテストに応募
その勉強会で十日町市が主催のビジネスプランコンテスト「トオコン2015」があることを知った。せっかくだから勉強会に参加したみんなで応募してみようという話になった。しかし、企画書など書いたこともない私が作った企画書はかなりひどかった。自分でも小学生の作文の域だと悲しくなった。が、その企画に賛同してくれた成瀬さんによって、立派な企画書になった。
それから1ヶ月程経ち、忘れた頃に、書類選考(1次選考)の合格通知が届いた。勉強会参加者で応募した人は自分を入れて7人いたが、結果的に通ったのは自分だけだった。これにより12月に十日町市で行われるトオコン本選会でプレゼンテーションに初挑戦することが決まったのである。
トオコン2015に向けてプレゼンを作り込む
十日町で農業を体験してみる
「十日町に実際に行かなくては説得がない」と思い、さっそく9月に行くことにした。十日町の中でも更に山奥である松之山という地域にある温泉宿「おふくろ館」の経営にウィルフォワードが携わっていたので、連れていってもらうことにした。
成瀬さんらに誘われて、棚田の稲刈りを体験することとなった。手刈りと呼ばれる一番原始的な方法で、「こんなに農業はしんどいのか」と思った。
昼頃に始めた稲刈りはゴールが見えず、心が何度も折れそうになったが、日が落ちるギリギリの暗くなり始めた頃に何とか終えることができた。
腰も痛いし、「正直もうやりたくないな・・・」と思ったが、農作業後におふくろ館で食べた食事は疲れを吹き飛ばすほどに美味しかった。何よりも苦労を知った後の新米は格別だった。
アート作品を鑑賞しながら走ってみる
翌朝、早くに起床し、大地の芸術祭のアート作品を見ながら、20キロ超を走った。雄大な大地にあるアート作品はすごく魅力的だった。アートというものは馴染みが薄いと思っていたし、言葉では上手に説明できないが、アート鑑賞しながら走るのはすごく面白くて心地が良かった。
とにかく十日町を駆けまわる
十日町市スポーツ振興課課長の井川さんを紹介してもらい、「次回は一緒に十日町を走りましょう!」と言ってくれたので、2回目の訪問は十日町マラソン開催に向けて、十日町の魅力を発見すべく、2日間走りまくった。
天気は良くなかったが、紅葉の時期ということもあり、峠から見渡す景色は本当に美しく、自分たちが知っているだけでは勿体無いと思った。休みを返上してまで、私たちに十日町の魅力を伝え、十日町のマラソン大会を開催したいという井川さんの想いが伝わってきたロケハン合宿となった。
ビジネス用語についていけなくても
3度目の十日町はトオコン本選会出場者の顔合わせとなる勉強会だった。ロケハンもしたので「こんな大会にしたい」というイメージはあるものの、お金の流れとか全く分からないし、話されているビジネス用語もわからない言葉がたくさんあり。パニクりそうになりながら、何とか平然を装う勉強会となった。やっている時にきつい経験こそ後々本当に良い経験になるのだと思う。
超プロによるプレゼントレーニングの日々
プレゼン資料は自分の力だけではどうにもならないので、自分の希望や考えを好き勝手に伝えさせてもらい、成瀬さんとウィルフォワードに今年入社した青木くんがプレゼンスライドにまとめてくれた。
プレゼン練習を始めてすぐに躓いた。本題に入る前の冒頭の自己紹介ですらまともにできなかったのだ。自分が情けなくなったがやるしかないので、根気強く練習をすることにした。
ウィルフォワードには伝達力のプロである佐藤政樹さん(元劇団四季で主演まで務め、現在は研修講師として活躍中)や講師育成のプロである志村さんがいる。二人の熱心な指導の元、少しずつ感覚が掴めてきた。トオコン本選会に出発する直前まで、私のために時間を作って、練習に付き合ってくれた。
新しい加納由理への脱皮
やるしかない、プレゼン本番
プレゼン当日は、心強いウィルフォワードメンバーの成瀬さん、田中くん、松平くん、スターディー・スタイルの塚本さん、そしてスポーツ振興課の井川さんらたくさんの応援者に見守ってもらう中、人生初のプレゼンテーションをスタートした。
できるだけ、来場者の顔を見るようにして、「自分が好きになった十日町とその十日町を愛している人たち」のことを想うつもりでプレゼンテーションした。気がつけば10分というプレゼン時間はあっという間に終わっていた。
正直、プレゼン練習をしている時は、すぐに眠くなった。フルマラソンのレースを毎週出てる方が楽と思っていたくらいだった。それでもコツコツとやり続けてることで、新分野進出の部で1位をとることができた。関口十日町市長からは「加納さんの思いが伝わってきました。ここまで十日町のことを知ってくれて、大地の芸術祭というものを捉えてくれていることに嬉しく思います。非常に実現性がありワクワクしたので、是非、一緒にやって欲しい」というコメントをいただくことができた。
みんなの力があったからこそ
「マラソンランナー加納由理」としてではなく、新しい「マラソンに関わる加納由理」として前進できたことを実感することができ、本当にやってよかったと思う。
今回の結果は、私の力ではなく、ウィルフォワードのみんなの力でとれたものである。ビジネスに関しては全く分からない私に、1から教えてくれるみんなには本当に感謝している。
感謝の気持ちをこれからの原動力に変え、地域を元気にする面白いマラソン大会企画を考えて、それを大好きな仲間たちと共に実現していきたい。