トップを目指す上で絶対に欠かせない指導者との相性(対談:横田真人) 後篇 ブログ | 加納由理オフィシャルサイト

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パンダブログ

2017年10月20日

トップを目指す上で絶対に欠かせない指導者との相性(対談:横田真人) 後篇

こんにちは、加納由理です。アスリート対談第3弾は横田真人さんとの対談です。

前編の「日本記録を出した逆張りのトレーニング法(対談:横田真人さん)」に続き、後篇をお送りいたします。

海外で感じた日本と海外の選手で圧倒的な違い

加納:実業団は富士通に入社しましたね。そして、社会人1年目に拠点をアメリカに変えた時、はじめてコーチを付けたんですよね?
その頃、横田くんは記録が伸びなくてちょっとしんどそうでしたよね。

日本とアメリカの選手やコーチの違いってありましたか?

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横田:日本の指導者と話をしていると、「日本の選手は自己管理が出来ていない」と言うんですよね。

実際に海外の選手をみていて出来ているかというと、そうでもない。

でも、日本の指導者は「海外の選手は自立している」と言うんです。

それで、何が違うのかというと、アメリカは選手自身が時分の意志でコーチやエージェントを決めるんですよね。

そして、結果が出なければ選手は他に行くし、お金も払わない。選ぶ視点がすごくシビアなんです。

指導者を自分で選ぶと言う意識

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加納:確かに、日本はコーチもエージェントも自分で決めるのは、まだ一般的ではないですね。

サンタモニカの時のコーチは、どうやって決めたんですか?

横田:実業団に入った1年目にSTCIの上野さんに外国人コーチを探していただき、サンディエゴでコーチをされていたロサンゼルス五輪800m金メダリストのヨアキム・クルズ氏のところで長期合宿をしました。

クルズコーチのトレーニングは当時、僕が取り組んでいなかった「持久的な部分」にフォーカスしたトレーニングでした。

スピードを重視したトレーニングをしてきた僕にとっては納得いかない部分が多かったですが、「なぜ必要なのか」を丁寧に説明してくれたので、なんとか納得してトレーニングができました。

すると、1分46秒台を連発するようになり、安定度が増しました。

一方で、競り合いの中でトレーニングをしたかったのですが、トレーニングパートナーがいないこともあって、ヨーロッパで仲良くなったコーチと選手がいたサンタモニカに拠点を移すことにしました。

クルズコーチとはポイント練習しか会わなかったので、それ以外の練習はうまく自分で調整をしていましたが、サンタモニカではそれは許されませんでした。

サンタモニカのコーチのメニューは絶対で、しかもトレーニングの直前にでて、「それをやれみたいな。」心の準備もできないまま練習する感じだったんです。

その時、記録が伸びなくなっていましたね。

僕は、コーチの重要性を甘く見ていたんです。そこではじめて「コーチを決める、コーチを委ねる」ことの重要性を知りました。

加納:そうなんですね。今までコーチを付けていないところから、コーチを付けたことで流れが変わって、そこに合わせていくのはしんどいですよね。

逆に私は競技をはじめた頃から指導者ありきの競技スタイルでした。

選手時代に自分でコーチを選ぶということはなかったので、「選手がコーチを選ぶ」という言葉が刺さりました。日本もこういった流れになると面白くなってきますね。

横田:例えば、AとBのコーチがいても、同じトレーニングメニューが出たとしても、根底の考え方とかは違うじゃないですか。

それを考えた上でコーチを選んでいる選手は今、どのくらいいるのかなって思います。

同じメニューでも、そこに対する意図が全然違う。本番を意図した練習であれば、走り方も全然違くなってくるはずです。

選手が目指していることと、指導者が目指していることがどれだけ共有できて、練習にその意図が反映されているかがすごい重要だと思っています。

自分もそれによってパフォーマンスが変わっていくって身を持って知りましたし、今、自分がやっている仕事がその選手の人生に関わることですからね。

チーム選びは自己分析から始まる

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加納:横田くんは、現在、NIKE Tokyo TCでコーチをしていますよね。ご自身の経験から、選手に自ら選ばせるということを大切にしているわけですね。

横田:僕のチームは、合う、合わないがはっきりすると思います。選手とコーチである僕と目指す世界観が合うか合わないかというところですね。そこの世界観に共感することができれば、いい結果が出ると思います。

加納:立命館も資生堂も自分から行くと決めたんです。他の企業もあったけど、立命館も資生堂もある程度、自由にやらせてくれるスタイルでした。

私自身、管理される中では続かないと思っていましたので、自分の性格を分析した上でチームを決めていました。

横田:チーム選びも、自己分析だと思いますよ。僕は、長い間コーチがいなかったので、自分に合うコーチを選べなかったんです。むしろ、自分に合うコーチを選ぼうと思っていなかったんですよ。

あの頃、競技をやる上で、「何を大切にしたいか」がわかっていなかったんです。そもそも自己分析が足りなかった。自分に合わないコーチを選んだことは、自分の責任だと思っています。

その練習メニューを「なんのためにやるの?」「その努力は何を目指しているの?」ということに選手とコーチの共感がうまれなければ、選手はこなすだけになってしまいますよね。

例えば、400×10本という練習があったとしても、レースの何を想定して走るかということで、結果が全然ちがってくるんです。

レースを意識した時、一定の速度で走る必要があるのかと疑問に思います。

チャレンジしないといけない時もあるし、誰か後ろで走っている選手が揺さぶって振り落とす練習も絶対必要だと思います。
何の練習であるのか、そこがお互いに見えてこないと強くなれないと思います。

加納:わかります。目的意識がないとただ練習をやっているだけになってしまいますからね。

私も28歳の時、マラソンを始めてから、練習の意味や目的を理解してやるようになりました。

それから練習のアプローチ方法もわかるようになりました。フルをやりだしてから、練習を一人でやることも多くなりました。

メダリストはリスクをとる習慣がある

横田:先日のロンドン世界陸上に行った際に、高橋尚子さん(2000年シドニーオリンピックマラソン金メダル)とお話させていただいたんですけど、「今の選手は速い子も多い。でも、なんで勝てないのですか?」と質問したんです。

すると「速くても勝てないのは、リスクをとることが習慣化されていない。」とおっしゃられたんです。

その時、僕は「そうか、結果を出すためにリスクをとる意識で練習しているから、勝負するところでメダルが取れたんだ」と理解しました。

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加納:確かにそうですね。速く走れる事とリスクをとりにいく事は、別物です。

私は2009年のベルリンの世界陸上の時に、それを実感しました。「30kmの時点でイチかバチかの攻めに出るか、入賞を狙うか。」極限の中で選択を迫られました。結果的に私は入賞を選んでしまったわけです。

仮に攻めて、入賞もできなくなったらどうしようという怖さがあるんです。

横田:最近の女子チームでは、男性のコーチがペースメーカーをやっているチームが増えてきました。一定のペースで引っ張ってくれる練習があるので記録もでると思います。

でも、競わないといけないレース、勝負しないといけないレースがあるので、極限の中で活かせる練習じゃないと思うんですよね。

競い合う練習じゃないと養えない勝負勘があると思う。高橋尚子さんや鈴木博美さん(1997年アテネ世界選手権マラソン金メダル)も、練習の時からやっていたと伺いました。朝練でキロ4のペースなんですが、最後に誰かが仕掛けてくるって(笑)

加納:試合より練習の方がきつかったと高橋さんから伺ったことがあります(笑)有森裕子さん(1992年バルセロナオリンピックマラソン銀メダル、1996年アトランタオリンピックマラソン銅メダル)や高橋さんも「世界で戦う覚悟をしている人がいない」とおっしゃっていたことを覚えています。

横田:信念をもった選手が増えてくると、今の100mみたいにいいスパイラルが生まれてくるんだと思います。
そういうリスクをとりに行く姿勢は、みんなが持っていなくてはならないと思いますね。

加納:本当ですよね。リスクを取りに行く感覚わかります。試合もそうですし、選手として海外にいくという日本の慣れた世界から飛び出すことですもんね。

海外に出て行くと自分たちの常識の通じない世界ですから、どんどん出て行くと、内面は鍛えられていきますよね。

引退。自分の経験をコーチとして活かしたい

加納:さて、ここまで横田くんの選手観や考え方について伺ってきましたが、引退後についてお話をしていきたいと思います。

現在、NIKE Tokyo TCでコーチをしているということですが?

横田:女子選手を見ているんです。スタートして半年です。

先ほど、アメリカの経験でもお話ししたように、自分自身が選手としてコーチングの大切さを実感したんですよね。

引退後、公認会計士の資格をとっていたので、ビジネスの方に行くことも考えたのですが、いままでの経験がいちばん生きる場だと思いコーチングの道を進むことにしました。

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加納:女子選手の育成ですか?

横田:始める前、色んな人から「管理する」のが大変と言われました。それで、僕は「管理する」のはやめようと思ったんです。僕が大変なんで(笑) もちろん、ある一定の管理はしますよ。体重とか、日報をみたりとか。コンディションをみて、練習を組み立てるのはコーチの仕事ですが、やるかやらないかは本人が決めればいいと思います。

やらないなら、やらない理由を合理的に説明してくれればいいんです。僕は怒らないので、優しいですよ。

加納:自主性を重んじる横田さんらしいですね。でも、管理しないって難しくないですか?

横田:管理しだしたらきりがないですよ。いまの子達は優秀ですよ。だから自己管理できないってことはないと思うんです。自分で管理できなければ、その責任は自分に返ってくるだけなんで。

それと、コーチングの基本は信頼関係だと思うので、そこは崩さないですよ。

賢いからこそ、今の選手は「海外でこういう練習をやっている」とか、「他のチームがこういう練習をやっている」とか、知っているんですよ。だから、自分たちの練習には「どういう意図があるのか」をしっかりと説明しないと納得してくれないですよ。そのために、理論武装もするし、僕の今までの経歴が効いてくると思います。自分が大事にしていた「納得感」を選手にももってもらいたいっていう思いが強いです。

納得して、理解して、最終的に自分で判断をしてやる、ダメだったら一緒に責任を取る。それは選手にわかってもらいたいと思ってコーチをしてます。

加納:やっぱり、コーチとして誰かに聞いたり、いろんな勉強しているんですか?

横田:そうですね。日本のコーチや海外のコーチに聞いたりしていますよ。

それと、いろいろな視点を持たないと他と同じになってしまうので、無理矢理でも違う環境や情報に触れる状況をつくっています。今はアメリカのオンラインの大学院で勉強をしています。全くコーチングじゃない勉強もしますよ。心理学やファイナンス、マーケティングやスポーツに関することも全部勉強しています。

加納:それはすごい。忙しいのに時間あるんですか?

横田:無理やり時間をつくってます。むしろ、選手時代の方が時間がありましたね。選手時代は本を読むとか、自分の意思があれば勉強はできます。僕も意思が強いタイプじゃない、本来ならたくさん寝ていたいタイプです。だから、無理やり追い込まないとダメなんです。

加納:現役時代は意外に時間はありましたね。私ももっと陸上以外の人に会ったり、見識を広げたり、本を読んでおけばよかったとか、今になって思いますね。

最後に、質問ですが、横田くんはチームを含めて、これからどうなっていきたいですか?

横田:やはり、結果をだしていきたいですね。

今は18歳の子がいますので、まずは3年。そして10年後を見据えながら覚悟をもってコーチをしています。やはり、どこを目指して行くかということが重要だと思います。やるからには上を目指していきますし、選手とコーチが同じゴールをみることが大切です。始めたばかりで初めは厳しいかと思いますが、お互いそれだけの覚悟をもってやることが理想ですね。

加納:横田くん、お話し大変ためになりました。あえて人とは違う道を選択しながら、自らの意思で結果を作り続けてきた選手としての人生。そして、その経験から指導者として歩みをスタートしました。今回のお話は私が選手時代に聞いておきたいくらい、目から鱗のお話しでした。

横田くんの逆張りの思考法は、多くの選手に気づきを与えてくださるんじゃないでしょうか。今日はどうもありがとうございました。

インタビューを終えて 加納由理の振り返り

ここまでお読みいただきありがとうございます。前半と後半で1万字以上のインタビューになりましたが、それだけ内容の濃いアスリート対談になりました。

記事を読まれた方は、横田くんは強い意志を持ち、論理的な考え方をするクールな人だと思われたかもしれません。ただ実際に会うと、とても優しくお茶目で紳士的なイケメンです。

私のような感覚的な人間と、まったく違く、本当に話を聞いているだけで、「もっと速く聞いておけばよかった」と心の中で思ってしまいました。「自分の意志をもって、物事を選択してくこと」「競技観を持つ」「成果を作るために逆張りする」「指導者を自ら選ぶために自己分析をする」ということを聞いていると、スポーツ選手だけでなく、ビジネスの世界で働く方たちにも大変に役に立つ内容だったのではないでしょうか。

そして、世界で活躍する選手がどんな視点で物事を捉えているのかを垣間見ることができました。速く走るだけでなく、リスクをとって勝負するという視点も、短距離、中距離、長距離とどの分野にも必要なのではないかと思います。

今、陸上は短距離でよいスパイラルが起こっていますので、こうした波が他にもどんどん波及して行くことを祈っています。

次回のアスリート対談は、大島めぐみさん(シドニー、アテネオリンピック2大会連続出場)です。

お楽しみに!

・横田真人さんのtwitter https://twitter.com/masato_800

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